ハロゲン化アルキルのSN1, SN2, E1, E2 反応について

2017年12月19日火曜日

有機化学

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ハロゲン化アルキルはSN1, SN2, E1, E2反応と、いろいろな反応を起こします。この記事ではそれぞれの反応の機構や見分け方、特徴について書いていきます。

まずはじめに、どの反応が起きるのか一目で見分けたいという方のためにフローチャート(のようなもの)を載せておきます。(クリックで高画質表示します)





SN1反応


SN1反応とは、反応速度に1分子のみが関与する置換反応です。ハロゲン化アルキルからハロゲン化物イオン(脱離基と呼ばれる)が脱離して生成したカルボカチオンに対し、メタノールや水などの電子が豊富な化合物(求核剤と呼ばれる)が攻撃することにより反応が進行します。

反応速度は、ほぼ脱離するのにかかる時間と等しいです。

なぜならSN1反応の反応時間は以下のように表されるからです。

SN1反応にかかる時間= 脱離反応(遅い反応)+ 求核反応(速い反応)

SN1反応にかかる時間 ≒ 脱離反応にかかる時間

反応機構は以下の通りです。(副生成物は省略しています)



ちなみに、脱離反応で生成するカルボカチオンは平面構造をとっており、求核剤はカルボカチオンの上面からも下面からも接近して求核攻撃を行います。

そのため、元のハロゲン化アルキルに不斉炭素があった場合、生成物はR体とS体の割合が等しいメソ化合物となります。

SN2反応


SN2反応とは、反応速度に2分子が関与する置換反応です。この反応ではSN1反応とは違い、求核剤による攻撃と脱離基の脱離が同時に進行していきます。

つまり、求核剤が攻撃するときは、まだ脱離基が結合しています。そのため、反応速度には求核剤も脱離基の2分子が関与するわけです。

脱離基が結合している面は混みあっているので、求核剤は脱離基が結合している面の裏側から攻撃します。(背面攻撃と呼ばれる)

反応機構は以下の通りです。(副生成物は省略しています)


上でも述べたように、求核剤は脱離基が結合している面の裏側から攻撃するので立体は反転します。

つまり、もし中心炭素が不斉炭素となっていた場合、元がR体ならS体、元がS体ならR体となります。

E1反応


E1反応とは、反応速度に1分子のみが関与する脱離反応です。

1段階目の反応であるハロゲン化アルキルからハロゲン化物イオンが脱離する反応はSN1反応と同じです。

ポイントは次で、この反応では、水やメタノールなどの反応剤はカルボカチオンの正電荷を持った炭素に攻撃するのではなく、その炭素の隣の炭素に結合した水素を攻撃します。

E1反応ではこのように、水やメタノールはカルボカチオンから水素イオンを引き抜く役割を果たすため塩基として振舞います。

反応機構は以下の通りです。(副生成物は省略しています)



このようにハロゲン化アルキルに対する脱離反応では二重結合が生成します。

E2反応


E2反応とは、反応速度に2分子が関わる脱離反応です。

この反応でもSN2反応のようにすべての段階が同時に進行します。

つまり、塩基により水素イオンが引き抜かれながら、炭素と水素の結合に使われていた電子対が中心の炭素のほうに動きます。

電子対が近づくにつれ、ハロゲンが脱離していきます。

反応機構は以下の通りです。(副生成物は省略しています)





反応の分類

さて、ここまでの内容はプロローグで、ここからがメインの内容です。

ハロゲン化アルキルは似たような反応条件でSN1, SN2, E1, E2 反応の4つを起こしうるわけですが、どんな時にどの反応が起こるかについて書いていきます。

SN1反応およびE1反応, SN2反応およびE2反応はセットで考えます。

ここでは、前者を1系、後者を2系と呼びます。

1系 or 2系 ?


まず、1系か2系どちらが起きるかを決めます。これは求核剤(塩基)の強さ(濃度)によります。

なぜなら、1系は反応速度に求核剤(塩基)の強さは無関係ですが、2系は反応速度に求核剤(塩基)の強さが影響を及ぼすからです。

つまり、強い求核剤(塩基)を使うと、2系の反応速度は上がります。しかし、求核剤(塩基)を使っても1系の反応速度は変わりません。

一方で、弱い求核剤(塩基)を使ったとき、2系の反応速度は下がります。もちろん、弱い求核剤(塩基)を使っても1系の反応速度は変わりません。

まとめると、以下のように分類されます。



S系 or E系 ?


1系か2系か決まったら、S系の反応かE系の反応のどちらが起きるかを決めます。
S系とは置換反応、E系とは脱離反応のことです。

S系かE系かはハロゲン化アルキルのアルキル基の数によります。

・1系について

SN1反応は中間体として生成するカルボカチオンが安定なほど反応が進行しやすいと言えます。アルキル基は電子供与基なので、正電荷を帯びた炭素に電子を供与し、カルボカチオン全体として安定化します。

よってSN1反応は多置換なハロゲン化アルキルほど進行しやすいです。

つまり、反応のしやすさは以下の関係で表されます。



第三級ハロゲン化アルキル>(第二級ハロゲン化アルキル>第一級ハロゲン化アルキル)

 ※追記:比較的最近の研究(2009年に発表されたT. J. Murphy氏の研究)によると、SN1反応を起こすのは第三級ハロゲン化アルキルだけのようです。それゆえ、実際には第二級以下のハロゲン化アルキルではそもそもSN1反応は進行しないようです。


次に、E1反応についてです。E1反応でも中間体として生じるカルボカチオンの安定性が重要です。そのため、多置換なハロゲン化アルキルほど反応が進みやすいです。

つまり、以下のようになります。



第三級ハロゲン化アルキル>(第二級ハロゲン化アルキル>第一級ハロゲン化アルキル)

※追記:こちらも、実際には第三級ハロゲン化アルキルしか反応しないようです。


以上からわかると思いますが、1系ではSN1反応とE1反応が競合します。
そのため、どちらの生成物も得られることになります。

※追記:実際には、競合するといってもSN1反応の方が進みやすいようです。


・2系について

SN2反応はハロゲン化アルキルの立体障害の程度によって起きやすさが決まります。多置換なものほど立体障害が大きいので求核剤は攻撃しにくくなります。つまり、置換基(アルキル基)が少ないものほど反応が起きやすいです。

よって反応性は以下のようになります。



第一級ハロゲン化アルキル>第二級ハロゲン化アルキル>(第三級ハロゲン化アルキル) 

※実際には、第三級ハロゲン化アルキルでは立体障害が大きすぎるため反応は進行しません。


E2反応についてです。

E2反応では、生成するアルケンの安定性が重要となります。アルケンは多置換なものほど安定です。そのため、多置換なハロゲン化アルキルほど反応が起きやすいです。



第三級ハロゲン化アルキル>第二級ハロゲン化アルキル>第一級ハロゲン化アルキル



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